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法人名義で不動産を持つべき人の基準|メリット・デメリットと費用を徹底解説

「不動産は個人名義と法人名義、どちらが得なのか」——所得や資産が増えるほど悩ましいこの問いに、本記事は数値基準で答えます。法人名義のメリット・デメリット、設立や登記にかかる費用の全体像、取得までの5ステップ、融資・相続の注意点を実務目線で整理。読み終える頃には、あなたの状況で法人名義にすべきかの判断がつくはずです。

法人名義の不動産とは?基本の仕組みを解説

法人名義の不動産とは、個人ではなく株式会社や合同会社などの法人が所有権を持つ不動産のことです。ここでは個人名義との違いと、どんな人が検討すべきかを整理します。

個人名義との違い

個人名義は所有者本人がそのまま納税義務者となり、所得税・住民税が課されます。一方、法人名義では法人が所有者となり、賃料収入は法人の益金(法人の収益)として法人税の対象になります。所有権移転や賃貸借契約も法人の名義で行うため、契約実務や口座管理もすべて法人単位で完結する点が大きな違いです。

資産管理会社と法人名義の関係

資産管理会社とは、個人や親族の資産(不動産・株式など)を管理する目的で設立される非上場の法人です。不動産投資家や地主が設立するケースが多く、法人名義の不動産の大半はこの資産管理会社が保有しています。役員報酬という形で家族に所得を分散したり、相続時に株式として資産を承継したりできる点が活用の中心です。

どんな人が法人名義を検討するのか

以下のような方は法人名義の活用を検討する価値があります。

  • 不動産所得が年間900万円を超え、所得税率が法人税率を上回ってきた方
  • 複数棟・複数戸を保有し、今後も物件を増やす予定がある投資家
  • 相続財産に不動産が多く、将来の遺産分割や納税資金対策が必要な方
  • 個人事業主で法人成りを機に不動産も法人へ移す予定がある方

法人名義と個人名義を徹底比較|税率・費用・相続

税率・経費・相続の3つの観点から個人名義と法人名義を比較すると、所得規模によって有利不利が逆転することが分かります。

所得税と法人税の税率差

個人の所得税は累進課税(所得が増えるほど税率が上がる仕組み)で、住民税10%を合わせると最高55%に達します。一方、法人税は資本金1億円以下の中小法人であれば、所得800万円以下の部分は約23.2%(法人税・地方法人税・住民税・事業税の実効税率ベース)、800万円超の部分でも約33〜34%程度に収まります。課税所得が900万円を超えるあたりから、法人税率のほうが有利になる目安です。

経費計上できる範囲の違い

法人は個人よりも経費計上の範囲が広がります。

  • 役員本人・家族への役員報酬(所得分散効果)
  • 生命保険料の一部損金算入
  • 出張日当や社宅家賃の一部負担
  • 退職金の損金算入(個人事業では困難)

個人でも必要経費は認められますが、家族への給与(専従者給与)には制限があり、法人ほど柔軟な所得分散はできません。

相続・売却時の扱いの違い

個人名義の不動産は相続時に不動産そのものが遺産分割の対象となり、共有トラブルが起きやすい一方、法人名義なら株式を分割することで不動産自体は法人に残したまま承継できます。売却時は、個人は所有期間5年超で長期譲渡所得(税率約20.315%)、5年以下で短期譲渡所得(約39.63%)となるのに対し、法人は保有期間に関わらず通常の法人税率が適用されます。短期売却が多い投資家は法人の方が有利になりやすい一方、長期保有で売却益が出る場合は個人の軽い税率が有利なケースもあります。

比較一覧表でわかる向き不向き

項目 個人名義 法人名義
税率 累進課税(最大55%) 実効税率約23〜34%
経費の柔軟性 制限あり 役員報酬・退職金等が可能
相続 不動産そのものが遺産分割対象 株式承継で分割しやすい
売却益課税 保有期間で税率変動 保有期間問わず法人税率
設立・維持コスト 不要 設立費・税理士報酬等が発生

法人名義で不動産を持つメリット

法人名義の最大の利点は、税率構造と所得分散の仕組みを使って手取りを最大化できる点にあります。

法人税率による節税効果

課税所得が900万円を超えると所得税・住民税の合計税率が法人の実効税率を上回るため、法人化によって税負担を数十万〜数百万円単位で圧縮できるケースがあります。例えば個人の課税所得1,500万円の場合、所得税・住民税の合計は概算で約500万円前後になりますが、法人で同額を稼いだ場合は実効税率約34%で約510万円と、単体では差が小さくても、役員報酬による所得分散を組み合わせることで実質的な負担を大きく下げられます。

経費・役員報酬による所得分散

家族を役員にして役員報酬を支払うことで、1人に集中していた所得を複数人に分散し、それぞれ低い税率区分を適用できます。例えば年間所得1,200万円を本人と配偶者で600万円ずつに分けると、それぞれの適用税率が下がり、世帯全体の手取りが増える設計が可能です。

相続・事業承継対策としての活用

不動産を法人が保有し、オーナーがその法人の株式を持つ形にすることで、相続財産は「不動産」ではなく「株式」に変わります。株式は生前贈与の際に暦年贈与(年間110万円までの非課税枠)を使って少しずつ後継者に移転でき、不動産そのものを分割する必要がないため、共有名義によるトラブルを避けられます。

法人名義のデメリットと注意点

節税効果ばかりに目が行きがちですが、法人化には固定費と手続きの負担が伴います。

設立費・維持コストの発生

法人設立には登録免許税や定款認証費用がかかり、株式会社で概ね20万〜25万円、合同会社で6万〜10万円程度が必要です。加えて、毎年の税理士顧問料(月額2万〜5万円程度が相場)が発生し、個人の確定申告のみで済ませていた場合と比べて年間30万〜60万円ほどコストが増える点は見落とせません。

赤字でも課される法人住民税均等割

法人住民税均等割とは、法人の所得が赤字であっても最低限課される地方税で、資本金1,000万円以下・従業員50人以下の法人でも年間7万円程度(自治体によって異なる)が発生します。個人であれば赤字なら所得税・住民税はゼロになるため、この点は法人特有の負担です。

売却時の二重課税リスク

法人名義の不動産を売却して利益が出た場合、法人税が課された後、その利益を役員報酬や配当として個人に移す際にも所得税・住民税が課されます。これが「法人と個人の二重課税」と呼ばれる現象で、売却益をすぐに個人へ還元する予定がある場合は、手取り額が想定より減る可能性があります。

融資審査が厳しくなるケース

設立間もない法人(決算が2期未満など)は金融機関から実績不足とみなされ、個人と比べて融資条件が厳しくなる傾向があります。特にプロパー融資(金融機関が独自審査で行う融資)では、代表者個人の連帯保証や既存事業の決算内容も審査対象になる点に注意が必要です。

法人名義にすべきか判断する基準

税率だけでなく、保有資産の規模や将来の物件数の見通しを踏まえた総合判断が必要です。ここでは具体的な数値基準を示します。

年間所得の目安ライン

不動産所得(家賃収入から経費を引いた額)が概ね年間700万〜900万円を超えてくると、所得税・住民税の実効税率が法人税の実効税率に近づき、法人化のメリットが出始めます。900万円を超えたあたりからは法人名義の方が有利になるケースが多く見られます。

保有資産・物件数の目安

物件数が3棟以上、または保有不動産の評価額合計が概ね1億円を超える場合は、相続対策・所得分散の効果が大きくなり、法人化の検討価値が高まります。1棟のみ・年間所得500万円未満の段階では、維持コストが節税効果を上回ることが多いため、慎重な試算が必要です。

5年・10年で見るコスト逆転ライン

法人化の初期費用・年間維持費(税理士報酬含む)を合計30万円/年と仮定した場合の累計コストと、節税額の逆転ラインを試算すると次のようになります。

年間不動産所得 個人の税負担(概算) 法人の税負担+維持費 5年累計差額
500万円 約140万円 約150万円 個人が約50万円有利
900万円 約300万円 約250万円 法人が約250万円有利
1,500万円 約550万円 約400万円 法人が約750万円有利

※税率・控除は簡略化した概算です。実際は扶養控除・青色申告特別控除などにより変動します。

このように、年間所得900万円を境に、5年保有すればするほど法人名義の優位性が積み上がっていくことが分かります。

判断チェックリスト

以下の項目に多く該当するほど、法人名義が有利になる可能性が高まります。

  • 年間不動産所得(個人)が700万円を超えている
  • 保有資産評価額の合計が1億円を超えている
  • 今後5年以内にさらに物件を買い増す予定がある
  • 相続人が複数おり、遺産分割で不動産が争点になりそう
  • 家族に所得分散できる余地(配偶者・子の役員就任)がある
  • 法人維持コスト(年間30万〜60万円)を許容できるキャッシュフローがある

法人名義で不動産を取得する進め方5ステップ

実際に法人名義で不動産を取得する場合、設立から税務体制の整備までおおむね2〜3か月かかります。全体の流れを把握しておくことでスムーズに進められます。

ステップ1:法人(資産管理会社)の設立

定款作成・公証人役場での認証(株式会社の場合)・法務局への設立登記を行います。資本金は1円から設定可能ですが、融資審査を意識して100万〜300万円程度に設定するケースが一般的です。

ステップ2:金融機関への融資相談と審査対策

設立直後の法人は実績がないため、代表者個人の確定申告書・既存事業の決算書・事業計画書を準備し、早い段階で金融機関に相談することが重要です。

ステップ3:物件の選定と売買契約

法人名義での契約であることを不動産会社・売主に事前に伝え、契約書の名義人を法人代表者名で作成します。融資特約(融資が否決された場合に契約を解除できる条項)を必ず盛り込みます。

ステップ4:登記と登録免許税の手続き

決済と同時に司法書士が所有権移転登記を行います。登録免許税は固定資産税評価額の2%(土地は軽減税率適用で1.5%の場合あり)が原則です。

ステップ5:取得後の会計・税務体制の整備

法人口座の開設、会計freee等クラウド会計の導入、顧問税理士との契約を行い、決算・法人税申告に備えた月次の帳簿管理体制を整えます。

法人名義にかかる費用の全体像

法人名義での不動産取得は、個人にはない初期費用・維持費が発生します。あらかじめ総額を把握しておくことで資金計画が立てやすくなります。

法人設立費と登記費用

株式会社の場合、定款認証費用約3万〜5万円、登録免許税15万円(資本金の0.7%との比較で高い方)、司法書士報酬5万〜10万円程度で、合計20万〜25万円が目安です。合同会社であれば登録免許税6万円のみで済み、合計10万円前後に抑えられます。

不動産取得税・登録免許税

不動産取得税は固定資産税評価額の原則4%(住宅用地等は軽減措置あり)、登録免許税は前述の通り評価額の1.5〜2%です。評価額5,000万円の物件であれば、不動産取得税200万円、登録免許税75万〜100万円程度が発生します(軽減措置適用前の概算)。

年間の維持コスト(税理士報酬・均等割)

税理士顧問料は月額2万〜5万円(決算料込みで年間30万〜80万円程度)、法人住民税均等割は年間約7万円が最低ラインです。これらを合算すると、年間40万〜90万円程度の固定費が発生すると見込んでおく必要があります。

費用内訳シミュレーション

評価額5,000万円の物件を法人で取得する場合の初年度費用の目安は以下の通りです。

費用項目 金額目安
法人設立費 20万円
不動産取得税 200万円
登録免許税 75万円
司法書士報酬 10万円
税理士顧問料(年間) 40万円
法人住民税均等割 7万円
合計 約352万円

法人名義の不動産で失敗しないための事例と対策

数値だけでは見えない実務上の落とし穴があります。ここでは士業監修のもとで整理した失敗事例と対策を紹介します。

法人化して後悔した3つの失敗事例

税理士・司法書士への相談実務からよく聞かれる失敗パターンは次の3つです。

  • 事例1:所得規模が小さいまま法人化し、維持費で赤字化 — 年間所得400万円程度で法人化した結果、税理士報酬と均等割の負担が節税効果を上回り、かえって手取りが減少したケース。
  • 事例2:融資審査で個人保証を求められ、想定していた分離効果が得られなかった — 法人名義にすれば個人の与信と切り離せると考えていたが、代表者の連帯保証が必須とされ、結局個人の信用力が問われた。
  • 事例3:売却時に二重課税で手取りが想定より大幅に減少 — 法人で売却益を出した後、そのまま役員報酬として引き出したため、法人税と所得税が二重にかかり、個人名義より手取りが少なくなった。

税理士のコメントとして「法人化は節税の入口にすぎず、出口(売却・承継)まで見据えた設計をしないと後悔しやすい」という指摘が共通しています。

融資が通る金融機関の傾向

地方銀行・信用金庫は地域の資産管理会社に融資実績が多く、設立間もない法人でも代表者の個人属性や既存取引実績を重視して柔軟に対応する傾向があります。一方、メガバンクは決算2期以上の実績を求めることが多く、新設法人には慎重です。日本政策金融公庫は創業融資制度を活用できる場合があり、設立初期の資金調達先として検討価値があります。

税理士・司法書士に相談すべきタイミング

法人設立を決める前の段階で、税理士に「個人と法人のシミュレーション」を依頼し、司法書士には登記費用と必要書類を確認しておくことが望ましいです。物件の売買契約を結ぶ前、遅くとも融資申込みの1〜2か月前には専門家に相談を開始しましょう。

法人名義の不動産に関するよくある質問

個人名義から法人名義への変更方法は?

個人が所有する不動産を法人に移す場合、贈与ではなく「売買」の形をとるのが一般的です。法人が個人から時価で買い取る形式にすることで、贈与税ではなく譲渡所得税(個人側)と不動産取得税・登録免許税(法人側)が課税対象になります。

1棟だけでも法人化するメリットはある?

物件が1棟でも、年間所得が700万円を超えている、または相続対策として株式承継を検討している場合はメリットがあります。逆に所得が低く維持費が負担になる場合は、個人名義のまま青色申告特別控除等を活用する方が有利なケースもあります。

既存物件を法人に移すと税金はかかる?

はい。個人から法人へ売買で移転する際、個人側には譲渡所得税(保有期間により約20.315%〜39.63%)、法人側には不動産取得税・登録免許税がかかります。移転コストと将来の節税効果を比較したうえで判断することが重要です。

まとめ

法人名義の不動産は、年間所得がおおむね900万円を超え、保有資産や物件数が増えてきた段階で検討価値が高まります。法人税率による節税効果や所得分散、株式化による相続対策といったメリットがある一方、設立費・年間維持費・均等割・売却時の二重課税といったコストとリスクも存在します。5年・10年という中長期のシミュレーションで累計コストの逆転ラインを確認し、融資条件や税理士・司法書士への相談タイミングを押さえたうえで判断することが、数百万円単位の損失を防ぐ最善の方法です。あなたの状況に照らして、本記事のチェックリストと費用シミュレーションを活用し、個人名義と法人名義のどちらが有利かを具体的な数字で見極めてください。